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2009年ゾロ誕企画(公開期間 2009/11/11~12/31)
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影法師の続きになります。

特殊設定海賊パラレル


SIDE: ゾロ(兄)


-----------------------

 面白い海賊達だ、それが俺の弟が乗船する海賊船の印象だった。



 俺がシモツキ村を出たのは15歳の時になる。
 15歳で成人、一人前と昔の風習まで持ち出して、まだ早いと渋るコウシロウ先生を説き伏せて俺は海を目指した。
「必殺! ムクムク弾!!」
「「うおおぉぉぉーースッゲェェ!!」」
 甲板で手土産代わりに渡したへび花火に異様に長い鼻の男と、ヒトヒトの実を食べたというトナカイ、そしてこの船の船長が歓声をあげる。
「馬鹿馬鹿しい」
「ふふ・・・、まあ、いいじゃないの」
 小さな花壇に水遣りをしている黒髪の女と、木の世話をしていたらしいオレンジの髪の女の子。
「ヨホホホホ~、面白い花火ですねぇ~。・・しかし、なんでしょうねぇ?それを見てるとワタシ、何かを思い出すんですけど・・・」
「ああ、そりゃあ、たぶん、ウ」
 ドガンと派手な音と共に楽しげにガイコツの男と会話していたリーゼントの大男が甲板にめり込み、その目の前に降り立った金髪のコックが煙草を咥えて眼光を光らせる。
「そこの変態に骨ェ!! レディの前でクソなんて、クソ汚ねぇ言葉を口にするんじゃねぇ!! 三枚にオロスぞ!」
 煙草を挟んだ指を突きつけて宣言したコックに周囲から妙な空気が注がれる。
「・・・・・・・あの~サンジさん?貴方、いっつも言ってますよ?」
「うん、そうだな~、サンジはいつも言ってるよな」
「ああ、しょっちゅう言ってるな」
「スーパー耳タコだぜ」
「ん~ん」
「そうね、よく聞くわ」
「今更だわ」
 じっとりと注がれた視線にヘニャリと煙草の先が折れ曲がったように見える。
「・・・・そんなにですか」
 掠れた男の声にオレンジの髪の少女はにっこりと可愛らしい笑みを浮かべる。
「ええ、フランキーじゃないけど、耳タコよ」
 少女の言葉にとうとう下がったコックの腕を見て、俺はクククと小さく笑い声を上げた。
 本当に楽しい船だ。
 これで海賊船だというのだから驚きだが、いずれおとらぬ強さを持つ海賊団だと聞いている。弟を含め、尋常じゃない賞金額はけっして誇張などではないのだろう。
「楽しい船だな」
 俺が出会った海賊のどことも似ていないこの船に弟が乗っていることに安堵を覚える。裏表のないといえば聞こえが悪いが、海賊らしくない海賊船に海賊として乗っている以上、弟は変わらないだろうとニッカリとこちらを見て笑った船長に笑い返して俺は海賊旗へと視線を上げる。
 今日の見張りは弟らしく、トレーニングルームも兼ねている展望台から甲板へと降りてくる様子はない。
「ほら、兄さん、アンタの分だ」
 唐突に横からトレイに乗ったグラスを差し出されて俺はゆっくりと凭れていた壁から背を離した。
「悪いな」
 氷の浮かんだグラスに手を伸ばして受け取ると、それに肩を軽く竦めて金髪のコックは歩いていってしまう。まだトレイに一つ残っていた所をみるとこれから弟の下へそれを届けにいくらしい。カツカツと硬質な足音を残して立ち去った後姿を見送って俺は手にしたグラスに口をつける。
 この船は信じられないことばかりだと口の中に広がった爽やかな甘さに目を細める。
 15の歳で海に出て、いいことも悪いことも経験してきたが、何度か流れで乗り合わせた海賊船でも、ここまで腕のいいコックに出会ったことは一度もなかったのだ。
 とりあえず美味いのは当たり前なのだが、まるで陸にいるかと錯覚させられるほどの料理の多さに昨夜は驚かされた。通常、肉か魚料理と、パンや芋、それに酒が出れば御の字なのだ。スープといったって獲れた魚介を煮込んだものやシチュー、せいぜいが芋や南瓜のスープ、それがこの船は味噌汁が出てきた。
 いや、味噌自体は保存食の一つであるし、俺やゾロ、どうやら話を聞くとほとんどの者が東の海の出身らしくそれが常備してあるのは分かる。だが、味噌汁の具は豆腐で、他にもその豆腐を使った揚げ出し豆腐やら炒り豆腐が皿に盛られ、また、酒の肴として出された和え物の衣も豆腐で作ってあった。豆腐を作る際に出るおからは、コロッケになってテーブルの上に大量に出ていたし、昨夜のメイン料理は長い鼻の男が釣り上げたという魚の活き造りと、これまた大量の肉の串焼きだった。これら以外にも酒を飲む俺やゾロの前には肝の煮付けたものやら、貝の焼き物、女性の前には豆腐で作ったというグラタンやサラダ、船長の前には骨付き肉の焼いたものが用意されていたのだ。
 テーブルの上が誇張でなくいっぱいに埋め尽くされた料理に俺は呆れるやら驚くやらで勧められるままに食事を取り、最後にデザートとして出されたケーキにつくづく変わった船だと再度驚かされたのだ。
 しかも、夕食後ゾロにあの量は異常じゃないのか?と尋ねたのだが、いつもの事だとあっさりと返されて俺は苦笑するしかなかったのだ。
 そしてそれと同時にあの金髪のコックの尋常じゃない食へのこだわりに心の中で拍手を送った。
 バタンと頭上で音がして、微かな光を反射させた影が展望台から下へと落ちてくる。届けるだけ届けてさっさと弟の元から立ち去ったらしいその姿に俺は苦笑を浮かべる。
 昨夜風呂場でからかい交じりにそのコックの目の前で弟に声を上げさせてみた。
 兄弟だからか警戒心のない弟の口から漏れた声は、聞きようによっては閨での嬌声にも聞こえるほど艶のあるものだった。そしてその声を聞いた瞬間、脱兎の勢いで風呂場を逃げ出したコックに少々悪戯が過ぎたかと後で反省したのだ。
 俺からは弟の表情は分からなかったが、見る見る真っ赤になったコックの顔からだいたい想像できて、ああ、しまったな・・・とは思ったのだ。
 船に降り立ち、弟を抱き締めそのピアスに挨拶代わりのキスをしたとき、船長とはまた違った強張った顔をしてみせた男がどういった好意をゾロに抱いているかなんて、ほんの数時間共にいただけですぐに理解したのだが、そういう面では酷く鈍い弟は自分に向けられている感情に気付いていないのだろうと思ったそれも見事に当たっているようだった。
「美味かった」
 ふらりと甲板を横切ってダイニングへと戻っていこうとするコックを引き止めて、俺はニヤリと笑ってグラスを差し出す。
「あ・・ああ」
 そんな俺を一瞬眉を顰めて見つめて、気付いたかのようにグラスを受け取って立ち去っていく後姿にクククと自然に漏れる笑みを何とか口の中に止める。
 他人の恋路を邪魔するつもりはないが、弟に相応しいかどうかの判断ぐらいはさせてもらおう。
「料理だけは合格点だな」
 ボソリと漏れた感想を姿の消えた扉へと向かって呟くと、俺は伸びをしてゆっくりと目を閉じたのだった。


 

SIDE : ゾロ(弟) へつづく
 

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