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2009年ゾロ誕企画(公開期間 2009/11/11~12/31)
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前回の続きのお話になります。
 


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 つい数日前に寄航した島はとても穏やかな島だった。
 その島はオリーブが名産で、市場は活気に満ち、島の人々の表情も明るく、滞在したのはログの貯まる二日ほどだけだが文句なくいい島だったとそうサンジは今でも思っている。
 ただ、そんな穏やかな島だからこそしてしまった油断というものがあったのだ。


「きゃああああ!」
「げひゃひゃ」
「ゲーラゲラゲラ」
 ホテルへと向かう帰り道、そんな下卑た笑い声と女性の甲高い悲鳴が路地裏から聞こえてきてサンジは咄嗟にそちらの方へと靴先を向けていた。
「いやああ」
 甲高い女の涙混じりの悲鳴にビリビリと布地の裂ける音が被さり、サンジは口にしていた煙草のフィルターをギリっと噛み締めた。
「おら、そっち抑えてろよ」
「ひょおぉ、いい眺めだなあ」
 ケラケラと笑う男の背に隠れて女性の姿は見えないが、その太い腕の向こうからほっそりとした白い足が覗いていた。
「おい、そこのブ男」
「あん?」
「その薄汚ねぇ手をレディから退けろ!」
「ああ?」
 その惨劇に間に合ったのか間に合っていないのか不明ながらもサンジは声をかけ、ほんの一瞬男が振り向いた隙にその体に鋭い蹴りを入れた。
「グッ!!」
 ドカンと大きな音をたてて飛んでいった男、そして女を抑えていた男への頭上へと踵を落とすと、女性との間に滑り込み、続けざまに蹴りを入れ、もう一人の男も吹き飛ばす。
「ヒッ!」
 背後で引き攣った悲鳴にかすかに目を細め、サンジは蹲り呻く男達へと体を向けた。
「殺されたくなかったらさっさと失せろ。俺の気が変わらないうちにな」
「!!」
 ゆっくりと煙草の煙を吐き出して、鋭い視線を向けたサンジに、ゲホゲホと噎せながら男二人はヨロヨロとおぼつかない足取りで逃げていく。あの様子では仲間を連れて戻ってくることはないだろうとサンジは緊張を解くと、ゆっくりと振り向いた。
「ヒッ!」
「レディ、もう大丈夫ですよ」
 無残に破かれた上着や際どい位置まで捲り上げられたスカートからさりげなく視線を外してサンジは優しく声をかける。この場にナミやロビンといった女性がいればいいのだが、今はサンジ一人だけしかいない。傷付いている彼女を放ってこの場を立ち去ることも出来ず、怯えて震える女性が自然に落ち着きを取り戻すまでサンジは困ったように眉を寄せるしか出来なかったのだった。
「もう大丈夫です」
 のんびりと女性に背を向けて煙草を3本ほど吸い終えたサンジに若干掠れてはいるが落ち着いた声がかかる。
「これ、ありがとうございました」
 驚かせないようにとゆっくりとした動作で振り向いたサンジに黒い上着が差し出される。それを笑顔で受け取ってサンジはところどころ汚れている物のしっかりと身形を整えた女性の様子にホッと心の中で安堵の溜め息をついた。
「助けていただいて有難うございました」
 乱れていた黒髪を背後で一つに括り、ゆっくりと下げられた頭にサンジは軽く首を振った。
「お送りしますよ、レディ」
 にっこりと微笑んで差し出した手に少し目を丸くして、クスリと小さく笑うとほっそりとした手が差し出される。
「お願いします」
「ハーイ、喜んでェ~」
 おどけてハートを飛ばしてみせたサンジに女性は目尻に浮かんだ涙をそっと拭うとクスクスと楽しげに笑ってみせたのだった。



「・・・で、その時に貰った魚を加工して」
 助けた女性は小さな魚屋を営んでいるということでお礼にと貰った新鮮な魚と名産のオリーブを手にサンジはメリー号へと帰った。出航は明日の朝ということでせっかく貰った魚を新鮮なうちに加工しておこうと思ったのだ。
「翌日、出航したここで料理をしようとして包丁が持てねぇことに気付いた」
「・・・病気か?」
「ああ、チョッパーが言うにはその時に貰った魚の持つ毒が原因らしい」
 食事を終えたゾロと向かい合うように座ったサンジの持つグラスが澄んだ音を立てる。カラリとグラスの中で回った氷をクルリと回すと、グラスを口に運んだサンジが小さく唇を歪める。
「その魚の鱗に一枚だけ神経毒を含んだものがついているって所まではすぐに分かったんだが・・」
「解毒できねぇのか?」
「ああ・・」
 包丁を手にしようとして悪寒が走った。刃物の輝きがどうやら駄目らしく我慢して何とか手にしても手に力がはいらないという状態になってしまい全く使えないのだ。
 幸いにして何が原因かという所はチョッパーに相談したことで解決の糸口は見えたが、現時点では病状として改善の余地がないというところらしい。
「チョッパーが言うには、この魚の神経毒はデリケートで魚から剥がして1時間もしないうちに分解してしまうらしく解毒剤を作るのが難しいんだそうだ」
 サンジの説明にゾロの眉間に深い皺が刻まれる。
「あー、でも、実はそう難しいことじゃねえんだ、この毒、解毒すんの」
 深刻な空気を払拭するようにサンジが明るい声で告げてグラスを開ける。
「この魚の毒は別の魚が持つ毒で相殺できるんだってよ。だいたい二つの魚は近い海域を泳いでいるらしく片方が獲れるのなら、地域でその魚が獲れるだろうってチョッパーが・・」
「・・・・・嘘をつくな」
 ピシャリとした言い方でサンジの言葉を遮ったゾロの視線が険しさを増す。
「テメェがその魚を捌いた島から5日以上経ってんだ。いままでの航海中に何度もルフィやウソップが釣りをしてるが、治ってねえってことは釣り上げた中には解毒に必要な魚はいなかったって事だろう?」
 ゾロの言葉にサンジはかすかに唇を噛んだ。
「船は進んでんだ。すでに海域が変わってその魚が獲れない海域に来ちまっているって可能性が高いんだろ」
 確かにチョッパーも同じ事を言って、原因が分かり次第ナミに頼んで船を島に戻すことをサンジに提案してきたのだが、それを断って船を進めてきたのはサンジだ。自分の都合で船の足を戻すことは出来なかったのと、まさかこれほど獲れない魚だと思ってもみなかったのだ。実際島で貰った鱗に毒のあった魚をもらった店は小さかったし、特に注意することなくくれた事から珍しい魚というわけではなかったのだろう。
 視線を逸らしたサンジの顔を見つめていたゾロがガタンと大きな音をたてて立ち上がる。
「どうした?」
「・・・・・・・・・」
 ジロリと不機嫌な様子を隠すことなく睨み付けてくるゾロをサンジは見上げる。そんなサンジに苛立ったようにゾロがくるりと背を向けて扉へと歩き始めた。
「ナミに戻すよう言ってくる」
「ちょ、ちょっと、待て! 待ちやがれ! クソ剣士!」
 ガタガタと大きな音を立てて慌ててゾロの後を追ってきたサンジにゾロの鋭い視線が突き刺さる。
「これはテメェだけの問題じゃねえ。クルー全員の問題だ」
 ゾロを引き止めるために伸ばされていた腕をすり抜けて、パタンと軽い音を立ててキッチンの扉が閉まる。
「・・・・・・あのクソ剣士」
 言い方はどうあれ、心配しているのだと、これは言われた事になるのだろうなと、サンジは熱くなる顔を片手で隠すと、無意識に綻んでくる頬に小さく笑い声を零したのだった。



~つづく~

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