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2話か3話ぐらいで終わる予定です。
海賊設定、ちょっとシリアスな感じのお話だと思います(^^
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「「「いっただきまーす」」」
元気いっぱいの声がキッチンに響き渡り、見慣れた食事風景が開始される。
ガツガツと片手に肉を掴んでは頬張るルフィに、そのルフィから自分の食事を守りつつ、フォークを動かすウソップ。チョッパーは蹄に器用にフォークを持って美味しそうに取り分けられた料理を口に運んでいる。その喧騒とは少し無縁の空間でのんびりと優雅に食事を取るのはナミとロビンの二人だ。
「サンジくん。後でゾロの分お願いね」
「了解しました」
ナミの言葉ににこやかに答えてサンジは見張り台に残っている剣士の姿を思い浮かべた。
「コック、酒」
「まず飯を食え」
キィと蝶番を軋ませて現れたゾロの姿にサンジは振り返ることなくプライパンを揺する。
甲板で揃って食事を取る時以外は誰かしらが交代で見張りに着いている。もっとも交代といっても昼はほとんどがゾロが請負い、たまに3回に1回の割合で夕食もゾロが見張りについてくることが多い。
「ほら、これから食ってろ」
刀を脇に立てかけてテーブルに着いたゾロの前にサンジはたっぷりの野菜と魚介の煮込まれたスープの皿を置き、同時にほんのりと焦げ目のついたバケットを籠に盛って差し出す。そのついで帰りに冷蔵庫に寄って冷やしておいた野菜ジュースをグラスに注ぎ、空のコップとアイスティーの入ったピッチャーを手にテーブルへと戻ってくる。
「ビタミンたっぷり、疲労回復になる残さず飲めよ」
小さく笑いながら差し出されたグラスを眺めたゾロの手がゆっくりとそれを口へと運ぶ。ゴクゴクと音を立てて飲み干し、スプーンを取り上げ皿に盛られたスープを食べ始めたゾロにサンジはコンロへと戻っていく。
「よし、出来た」
こんがりと両面キツネ色に焼けた鳥のグリルはたっぷりの香草で臭みを消し、塩と胡椒で味をつけただけのものだがその塩加減が絶妙で最高の出来だとサンジは口元を緩める。何を出しても美味いと口にしない剣士だがこれは好みだろうと鼻歌混じりに皿に移した料理を運ぶ。
さあどうだ、と言わんばかりに剣士が鳥を口にする瞬間を待っていたサンジは野菜ジュースを飲んだだけであまり減った様子のないスープとそして一口も齧られていないパンに首を傾げた。
「どうした? 口に合わなかったか?」
ルフィほどではないとはいえ、豪快に食事をとる剣士の皿がほとんど手付かずというのはおかしいのだ。スープの温度もパンの焼き具合も完璧だったはずだとサンジはどこか困惑した表情で食事の手を止めているゾロを見つめた。
「・・・やはりな・・・」
じっと用意されていた料理を眺めていたゾロが静かに呟くとカチャリと音を立ててスプーンをテーブルの上に戻す。
「おい?」
食事を取るという雰囲気ではなくなったゾロにサンジはますます困惑するしかなく、そんなサンジへと翡翠の瞳がゆっくりと向けられた。
「テメェ、いつから刃物が持てなくなっている?」
ゆっくりと殊更ゆっくりと問いかけられたその言葉にサンジの身体が大きく揺れた。
「・・・な・・・なに?」
「誤魔化すな」
ピシャリと掠れたサンジの声に被って発せられたゾロの言葉にサンジは小さく息を飲む。
「三日、いや、今日で四日目だな? クソコック」
確信を持って告げられた言葉にサンジはキュッと右手を握り込むと、胸ポケットから取り出した煙草を口へと運んだ。
「なんのことだ? クソ剣士」
パチリと小さな音を立ててマッチに火を点したサンジがゆっくりと顔を背け煙を吐き出す。その動作を見つめていたゾロがカタリと小さな音をたてて椅子から立ち上がった。
「俺は料理の事は詳しくねえ。どんな野菜がどういうふうに使われてテメェが俺達に出すうめぇもんになってるのかってのも想像できねえ」
ゆっくりとサンジの前を通り過ぎ、ゾロが向かった先を意識で追いながらサンジはゆっくりと煙草の煙を吐き出す。
「だがな。テメェがどんな時も、どんな料理でも手を抜くことなくやってきているのは知っているつもりだ」
カタン。小さな音をたてて開かれたのはサンジが日々手入れを怠ることなくバラティエから付き合ってきた相棒を収めている場所だ。
綺麗に磨かれ、刃物独特の艶を放っているそれを見つめて、ゾロは煙を吹かしているサンジへと顔を向けた。
「いつからこいつらを使ってやれてねぇんだ?」
ゾロの静かな問う声にサンジはフウっと大きく煙を吐き出すと、ゆるく両の目蓋を押さえる仕草で俯いた。
「五日。・・・・そんな所だな」
「・・・五日」
「ああ。・・・・・とりあえず、そいつら仕舞ってやってくれよ」
苦笑混じりのどこか疲れたようなサンジの声にゾロはチラリと手元を見ると、先程と同じように扉をしめ、ゆっくりとした歩みでテーブルへと戻っていく。その姿にちいさく溜め息を漏らしてサンジは煙草を挟んでいない指でテーブルの上を指差した。
「温かいうちに食ってくれ。自信作なんだ」
ホカホカと温かい湯気をたて、香ばしい匂いをさせている料理をチラリと見て、ゾロは再度サンジへと顔を向けた。
「話すな?」
「ああ、食い終わったら話してやる」
諦めたように告げられた言葉にゾロは一つ頷くと途中になっていた食事を再開させたのだった。
~つづく~